世の中には自分の好きなタイプの物語/小説は少ないなぁと今まではそんな風に思ってました。
ここ数年で映画やドラマやアニメをサブスクで気軽に観れるようになり、選んでは観る、気に入らなければ途中で離脱、気に入ったら何回でも観れる。さらに似たようなジャンルが一覧に出てきたりもする。そしてまた観てみる。
そんなことを繰り返しているうちに、私はどんなタイプの物語が好みなのか(好みじゃないものがはっきりすることで)少しずつはっきりしてきました。
少ないと思っていたのが結構あるなぁに変わり
好みのタイプの物語が少ないと思っていたのが結構あるなぁに変わり。新しく出てきたドラマやアニメの中に好きなものが何個かあると、毎週観るのが楽しみになったり。(楽しみになるほどのドラマやアニメがあることが新鮮で嬉しい)
そしてここ数年で世の中ってかなり変わってきてる、というのを実感。
希望が出てきて、私好みの小説を探してみる
もしかすると小説も私好みの物語が増えてきてるかも、と希望が出てきて本屋さんで探してみたり、それを元にネットで調べ、ドラマや映画の原作者の名前もチェックしたりと。(今の時代、原作者や脚本家など調べるのも楽ですね。)
物語をつくっている人たちのことも少しずつ知っていることが多くなっていくのが嬉しい。
そんなこんなで、去年の年末から、年末年始の少しゆっくり出来る期間に本を読もうと、エッセイや小説を何冊か選んで読んでみました。
これ以上積んどくはしたくない、今まで何回か入り込めなくて途中で読むのをやめたことがあるので、買う前に読書メーターやブクログなどでどんな感想を書かれているかをチェック。そしてネット上での試し読みが出来たら、それも読む。大丈夫そうだな、と思ってようやく。
そのおかげか年末年始選んだ本は全部心地よく読めた。(慣れてくればここまで調べずとも直感でささっと選べるようになるだろう)
私にしては珍しい現象
その中でもこの作家さんの本をもっと読みたい!となって、今まで出ている本をほとんど読み漁ってしまった、という、私にしては珍しい現象が起きまして。
作家さんの名前は「青山美智子」さん。デビュー作はシドニーで発行されている情報誌のWEBサイトで連載していた小説を元に書籍化された『木曜日にはココアを』。
最初に私が読んだのも『木曜日にはココアを』、出版社の新人賞とかではないんですね。
心がホッとする綺麗で可愛らしいお話でした。「マーブル・カフェ」に関わる人たちの話で連作短編集になってます。読みやすくて、フィニッシュが綺麗にまとまってるなぁという印象。
入り口の『木曜日にはココアを』はさらっと読んで好印象だったわけですが。
【入り口の最初の1冊】
全部いいけど、特にお気に入りの3作
特にお気に入りはこの3作品。『猫のお告げは樹の下で』、『お探し物は図書室まで』、『鎌倉うずまき案内所』

◆猫のお告げは樹の下で
確か2冊目に読んだのが『猫のお告げは樹の下で』だったと思います。
こちらも連作短編集で、思い悩む人たちがそれぞれふと立ち寄った神社で変わった猫(ミクジ)に出会い、文字の書いた葉っぱをもらって、その後その言葉(ミクジのお告げ)によって、気づいて行動したりすることで…というお話。
ちょっとファンタジーが入っていて、こういう感じも好き。なのですが、今回はさらにほろっときた場面があって、自分でも驚いたくらい。
ネタバレにならないよう話すと、7作品あるうちの1つ、学校に馴染めてなさそうな苔が大好きな小学校の男の子が主人公なのですが。保健室にいた時にとある先生と苔を話題にお話しする機会があったんですが、その後その先生が退職されたんですね。
それで、猫(ミクジ)に会ったことがキッカケで葉っぱのお手紙を書くんです、その先生に。保健室の先生が退職した先生に葉っぱのお手紙を渡してくれるんですが。その後退職した先生から男の子に返事が来ます。
その文章とやりとりの場面に私ホロホロきてしまいました。
何が私をそんなにホロホロさせたのかを考えてみたんです。私は何に心が動いたのか?
多分、学校に馴染めない男の子と退職せざるおえなかった先生、その両方の気持ちが心に湧いてきて、その二人のやりとりと出会いに感動したんだと思います。
お互いの気持ちがなんかすごく分かる気がして。ちょっとした間の出来事なのに、そんな小さなキッカケなのに…思い出してもホロっときます。
そしていろんな事を思い出しました。大人になったら忘れてしまっていることを。
『猫のお告げは樹の下で』には他にプラモデルのお店をしていたおじいちゃんの話とかもあって、この話も好きで(ほろっとはしてないけど)。お告げの言葉をみんなそれぞれ気にして、色々考えて行動していく様子が面白いです。
私もあるなぁ、同じような言葉をほぼ同時に、耳で聞いた言葉がその時見ていた何かの文章の中にあったり、この言葉何かあるのか?お告げ?って気になったりすることって、と思いながら、7つのお話しをおもしろがりながら読んでました。
◆お探し物は図書室まで
次は『お探し物は図書室まで』、こちらは2021年本屋大賞第2位なくらいだから、よく知られてますね。
五つのお話で連作短編集。町の小さな図書室の司書さんが本を探して来られる方に本のセレクトをして手作りの付録を渡したりするんですが。
こちらでもホロっときた場面がありまして。
30歳ニート男性が主人公の章、ネタバレにならない程度に書くと、ほとんど書けないのですが、図書室に行ったことで、ニートの彼の人生は変わりはじめます。
そして変わってきた頃に母親にプレゼントを渡すのですが。ここのやりとりにホロホロホロっとしました。
私は何でホロホロしたのか?考えてみるとやっぱりここでも母親の気持ちとニート本人の気持ちが心に湧いて。
両方の気持ちがすごく分かる気がして、そのやりとりにグッとくるんだと思います。私のホロホロくる場面に共通点がある気がしてきました。
さて、ニート男性以外のお話もホロホロきてなくてもいいんです。どうしてこんなにいろんな職業、年齢、設定での登場人物がいそうな感じで描けるのか、すごいな、と面白いな、と思って。
出てくるアイテム、司書さんが付録をつくっているのですが、その手芸道具をしまってる箱がお菓子の箱だったり。
表紙の写真に写ってる猫や飛行機やカニがその付録のようです。羊毛フェルトってこんなに細かく繊細に作れるんですね。これ見て羊毛フェルトのイメージが変わりました。
◆鎌倉うずまき案内所
そしてお気に入り3作目、『鎌倉うずまき案内所』こちらも面白い。ホロっときた場面はないけど、面白くてお気に入りです。場所は鎌倉が舞台で、6年ごとに主人公が変わって年をさかのぼっていく、6つのお話。
脇役で出てる人が複数のお話で登場してるんです。
本の最後に「平成史特別年表」があって、それを見ながら読むのが面白い。その表には登場人物と当時の年齢、何をその時やっていたのかといった内容と世の中で何があったのかが表になっていて。
懐かしい、この時私何歳で何してたかな?とか思い巡らしながら読んでました。
だんだん過去になっていくのもすごく面白かったし、次が知りたくて読み始めたら止まらない感じでしたよ。場所が一度だけひとり旅で訪れたことのある鎌倉っていうのも良かったな。
これは多分ファンタジーの要素もあって、時代をさかのぼっていく、登場人物が何回もいろんなお話で出てくるという構成が気に入ったのかな、と思います。
でも6つのお話の中で好きなのは15歳の女の子のお話しがすごく好きですね。理由を書くとネタバレするのでやめておきます。
文庫本は全部読みました
あと、青山さんの小説で文庫本になっているのは残り『月曜日の抹茶カフェ』と『ただいま神様当番』、

『月曜日の抹茶カフェ』は『木曜日にはココアを』のマーブルカフェが定休日の月曜日にやっていた抹茶カフェ繋がりのお話で、京都の和菓子屋さんやお茶屋さんが出てきてました。さらっと読めてスッキリした感じですが。
青山さんの作品に共通して思うことは、いろんな視点をいつも見せてくれてるのが好きですね、読み進めるうちに物語の世界が立体的に自分の頭の中で出来上がっていく、みたいな。
たとえ、登場人物が自分とはかけ離れていて、ちょっと気持ち分からないな、って時でもいろんな視点を見せてくれるので、それを読み解いていくのが楽しみになりますね。
『ただいま神様当番』はとあるバスターミナルの同じ時刻に乗り合わせる5人の物語。てっぺんがハゲ、サイドは白いふわふわの白髪、着ている服はえんじ色のジャージ、というおじいちゃん姿をしてるのが神様らしく。勾玉になって手の中に入ったり、出てきておじいちゃんの姿になって話したりします。
無邪気でそのままで可愛いらしいおじいちゃんの神様でした。
5人の中にはイギリスから来たイギリス人の大学非常勤講師の方もいたり、エアコン工事とかやってる零細企業の社長が出てきたり、ほんといろんな人が出てきて面白い。
あと、ほとんどの表紙に田中達也さんのミニチュア作品の写真が使われていて。この方はミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立てるアート「ミニチュアライフ」の活動をしている方だそうです。
私、今回で初めて知りました。こんな動いてる感じのする小さな人間とか、細か過ぎる、すごいなぁ。
単行本2冊
あと最後に2冊。文庫本にまだなってない『青と赤とエスキース』、『月の立つ林で』
この2冊もお気に入り、さきほどのお気に入り3作とはちょっと違う雰囲気のような。
この2冊は事前に内容をほとんど調べずに読みましたが、それが正解でした。その方が面白いと思います。
ホロホロっとした場面は『赤と青とエスキース』は最初の章の最後のあたりとエピローグ、『月の立つ林で』は最後の章。
詳しくは書きません。ちょっとでも書くとネタバレしちゃいそうだから。

二つとも表紙も素敵。
裏は写真に撮ってないけど、『赤と青とエスキース』の表紙の裏に赤の絵の具と青の絵の具が写ってます。よく見ると赤は「carmine」、青は「cobalt blue」となっていて。赤は赤でもいろんな赤があるんですよね。
『月の立つ林で』こちらの表紙は絵がエンボス加工になってたりで、表紙までトータルでこだわっているのが更にいい。

ネットで見つけたコラボ連載小説も
ネットで調べてたらたまたま見つけた、青山美智子さんと田中達也さんのコラボ連載小説も全部読みました。
ミニチュアの作品と小説、どちらがどちらにどれくらい合わせたんだろう?すごく息ぴったりな感じでした。
特に気に入ったお話は「5イベントステージ」、あったかいなぁってホロっとしました。それから、「1メリーゴーランド」も可愛くて良かったなぁ。
これから
青山さんの作品で読んだ本は合計で、8冊になりました。一番最近出された『リカバリー・カバヒコ』だけは少し間を置いてから読もうと思ってます。なんとなくその方が良さそうなので。
私には珍しく、同じ作家さんの本を続けて8冊も。
今までは好きな物語があったとして、同じ作家さんの本でもっと読みたいなと思っても、他の本の主人公の設定やあらすじやらを読むと、読みたいと思えなかった、ということが多かったように思います。
なので、こんなに沢山好きな物語に出会えたのが嬉しいです。これをきっかけに、好みの本を探して読んでいこうと思います。小説もエッセイも色々と。
探し方のコツも自分のほろほろするポイントも分かってきたので、好みの本を選ぶのも選びやすくなってると思います。
◆著者:青山美智子さん
【お気に入りの3冊】
【単行本2冊】
【文庫本2冊】